15_夢

善田は葬儀の翌日から仕事に戻っていた。
いつまでも後ろ向きではいられないと考えていた。
それでも内心はブルーな気持ちであった、
心ここにあらずというか手は動いているが別のことを考えているようだった。

道的の遺骨をどうするかも考えていたが、
善田の両親から家の墓に入れてあげたら?と提案されていたので、
善田はその通りにすることにした。

道的が獲得したタイトル賞金はほとんど手付かずで残っていた。
道的も善田に負けず劣らず節約志向であったのだ。
遺産手続きにも入っていたが善田は相続を受けることにした。
特に使うあても無かったが、一番悲しいのは自分だ、
一番悲しい自分が得をしてもいいじゃないかと考えていた。

死亡届を役所に提出すると、道的の身内は世帯主である自分しかいないので、
相続の手続きはスムーズに進んだ。

道的の葬儀が終わってから一ヵ月が過ぎた。
善田は昔のように布団で寝る生活に戻っていた。
ある日の夜明け、善田は夢の中にいた。
夢の中に道的がいた。道的は笑っていた。

「私と打ち始めてから善田さん2~3目強くなった気がしますよ」

「あぁそうそう善田さんに渡すものがあったんだ」

そう言うと道的はいつのまにか花束を握っていた。

「善田さん無欲だから、これぐらいしか渡せるものなくてごめんなさい」

「そうそうそれからこれも渡しておきたくて」

そう言うと紙袋を道的はいつのまにか持っていた。

「そこへ善田さんも行ってください僕は先に行って待ってます」

道的から渡された紙袋を善田が覗き込むと小さな切手ぐらいの切符が入っていた。
え、これどこ行く切符だろ?善田がそう思っている内に目が覚めた。

あぁ夢だったのか。
善田は起きると同時に道的の遺影に目を向けた。
心なしか道的の表情がまだ笑っているような気がした。

その日、通帳を記帳すると善田の口座に道的のお金が振り込まれていた。
善田は今朝の夢は何かの啓示だったのかな?と思いつつ帰宅した。

善田はめっきりノートPCも使わなくなっていたが、
久々に立ち上げてみることにした。
道的の囲碁研究専用フォルダの中にテキストファイルが一つ入っていた。
「日記」と書かれたテキストファイルだった。

読んでみると、善田がPC操作を教えてからの記録が入っていた。
一つのテキストファイルに隠してあるようにまとめてあったので、
道的は多分あまり善田に見られたくなかったのだろうと思った。

善田が色々なところに連れて行ってくれたことの感激や
最新AIに負けた時も気を利かせてお茶とチョコを持ってきてくれたことや、
プロ試験合格時にネクタイとネクタイピンを買ってきてくれたことなど、
道的の個人的な喜びが書いてあった
最後の八冠を取った時は現代にきて本当に楽しかった。
と綴ってあった。

善田は道的の遺影に朝のように目を向けると、
今度は道的が照れくさそうな顔をしているように見えた。

「そうだな、楽しいのが一番だもんな」

と、善田は呟くと、

明日はケーキでも買って来て食べてお祝いするか、と考えた。
もちろん、道的には大好きだったチョコレートケーキをお供えしよう。
そう思って今日も一日を終えることにした。

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