OpenAIの拡張路線に対する私の見方
私は最近、OpenAIが独自ブラウザやモバイル端末、さらにはSNSまでも構想しているという話を耳にしました。技術的に先行している彼らが、さらに自前のプラットフォームを構築しようとする動きは一見すると自然な流れにも見えます。
しかし私は、このような「拡張」に対して慎重な立場を取っています。理由はシンプルです。すでに有利な戦場を持っている王者は、むやみに動くべきではないと考えるからです。
「攻める」だけでは勝てない──呉清源の教えに学ぶ
私の好きな囲碁棋士に呉清源先生がいます。先生はこう言いました。「攻められるからといって、攻めるべきとは限らない。得にならなければ攻勢に出る意味はない」。
これは、OpenAIの今の展開にも部分的に当てはまります。彼らが新たにブラウザ市場に参入して何を得ようとしているのか?SNSやハードウェアに踏み込むことで、どれほどの“得”になるのか?
敵が強固に守っている場所に、あえて打ち込む意味があるのか──それを見極める前に手を出すのは、攻めて必ず“得”となる状況を作り出すことではないでしょうか。
本当に“得”になる拡張は何か?
OpenAIが拡張することで得られるものを、いくつか分類してみます:
- ① 市場シェア(覇権の確保):ただし、ChromeやiPhoneの牙城はまず簡単には崩れません。
- ② 文脈データの獲得:ユーザーの行動・感情・関係性などを把握できる点では将来性あり。
- ③ ブランド力の確立:「AIといえばChatGPT」という印象を定着させたい意図は理解できます。
しかしこの中で「明確に確定的な“得”となる可能性がある」のは②だけです。他は確率の段階であり、労力を割く価値があるかどうかは慎重に見極める必要があります。
拡張よりもまず耳を開くべきでは?
私は思うのです。OpenAIがなすべきは、新たな領土の開拓ではなく、まず現在のユーザー、特に深く使い込んでいる質の高いユーザーからの意見を集める仕組みを整えることです。
例えば、整備されたコミュニティを作り、企業や研究者、専門職のフィードバックを吸い上げることで、今のChatGPTという戦場の完成度をさらに高める。収益化の基盤もそこにこそあるはずです。
それで限界を感じてから、外部に向けて“バッティング”すればいい。「今は蓄えるとき」「動くなら確実に得になるとき」──そうした慎重さが、長期的には王者の地位を守るでしょう。
千里先の戦場を手元に引き寄せる──誘いと土俵書き換えの戦略
敵が先行する戦場に安易に乗り込むのは愚策です。もし動くなら、敵を自らの有利な場所へ誘い込む秘策が必要です。
- 誘いの餌を用意する:限定機能やコラボ企画で注目を集め、競合が資源を割かざるを得ない状況を作る。
- 代理戦力を仕込む:パートナー企業やコミュニティを通じて間接的に圧力をかけ、競合を動かす。
- 土俵を書き換える:新カテゴリー(例:開発者特化AIコンソール)を提唱し、「そもそも戦場が違う」と認識させる。
これらは、王者が敵を手元に引き寄せ、最小限のリスクで最大の“得”を手にするための手法です。
サム・アルトマンに求めたい「静の哲学」
私ごとき若輩者が口を出すものではありませんし、サム・アルトマンのリーダーシップには大きな信頼を置いています。
ですが、彼には今こそ「焦る必要はない」という戦略眼を持ってもらいたい。大きく飛び立つ前には、一旦屈む必要があるのです。
無理に手を広げれば、既存の良質なユーザー──いわゆる知的補助を求める層──が離れてしまう危険があります。大衆路線への転換は、信頼という礎を揺らしかねません。
おわりに──王者は待てる者であり、知恵のある者である
囲碁にも通じる現実世界の本当に強い者とは「打ちたい手」だけ打つのではなく、「打つべき時」が来るまで待ち、かつ遅れながらにして「戦場を手元に引き寄せる知恵を持つ者」です。
私は、今のOpenAIにこそその「静の力」と「誘いの術」を両立させた動きを思い出してほしい。勝っている今こそ、深化と対話に資源を注ぎつつ、必要なときに敵を有利な土俵へ引き込む──それが王者の真の道だと、私は信じています。